日記

とみいえひろこ/日記

2022.05.08

このくらいの季節の夕方が、ほんとうに気持ちいい、と覚えておこうと思う。ワクチン接種の3回目。目的が決まっていて、そのためにおとなしくして待つ短い時間、というのをわたしは好きだなあ、落ち着くなあと思った。空間やスタッフの雰囲気にゆとりがあるからこう思えるところもあるだろうけれど。役所で待つ時間やお弁当を待つ時間もわりと好きだと思う。

ほんとにこれくらい短い時間なんだと思う、自分の集中力がもつのは。短い待ち時間、終わりが決まっていること、義務を果たせることの気持ちよさという条件が整えば、落ち着いてゆっくり読める。ゆっくり読めるのはすごくいい。

 

めがさめてあなたのいない浴室にあなたが洗う音がしている

 

よく生きる たくましく生きる うまく生きる 書きたいことを少しだけ書く

 

探してたこともわすれて朝焼けの森へ残してきた子どもたち

 

寝る部屋と呼ばれた部屋のカーテンを幾度も透ける車のライト

 

二三川 練 『惑星ジンタ』(書肆侃侃房)

 

これはそのときに読んでいたものではない。短い時間、と打って、思い出したくなって、自分のからだのなかに残っていたもう過ぎた時間がよみがえり、ゆっくりになっていった、短い歌。

夜中に買ってしまったものが、数日経ってばたばた届く。自分の数日前のいらいら感や進めなさが届く。買うという手段がとれなかった頃の時間もまた自分のからだのなかに残っていて、よみがえるのを待っている。

「残してきた子どもたち」。残してきた子どもたちは、思い出されてどうなるというんだろう。わすれたわたしが思い出そうとするとき、心や、体や、思いの使い方、方向や意味や力を得る。残されたものがそのまま残されているということと、ぜんぜん違う。思い出そうとする力が、思い出そうとするわたしを離れようとするところ、思い出そうとする者も残されたものも決して手をとりあえない領域に、ふっと空白のところ、ブラックボックスのところ、わすれた者が見つめ返されるところ。