日記

とみいえひろこ/日記

こちらから倚りかかれば受けいれる腕ふわりと蝿が浴槽にくる


アジールというほどのものではなくて蝿這うさまを見ている時間


石鹸の嫌というほど白い香によごれて蝿と入浴をせり


ふゆ風もはるの光も背をさする腕もここへは入ってこない


夢よりもかるい抱き寄せ方だった 振りほどいても構わなさそうな


憎しみの速度をゆっくりにさせたら雪柳あんなふうにゆれる


するりと今 夜の空気にふれにゆき水を飲む赤い舌あるだろう


水ようかんの冷たさで頬にふれてくる川風 川の光 夜には

 

 

(「かばん」2022年6月号より)