日記

とみいえひろこ/日記

2022.12.20

小林美代子『蝕まれた虹』(烏有書林

 

雲が落ちていて床に

それを拾うわたし、拾わないわたし。拾わないわたしは生き延び、拾おうとしたわたしは雲を見続けて、駄目になってしまった。駄目に。誰にとっての駄目に?

最近戦争の本ばかり読んでいる、と思う。戦争はすべての読みものに出てくる、と気づく。お風呂で読もうと思い手にとった別の本があった。悲惨すぎてしんどくなる気がして戻し、この本を手にとった。でも怖すぎそうで一度戻した。どの本も同じ、と思い直してお風呂で読んだ。

なぜか叔母を思い出していた。わたしはだんだん叔母に似てゆくのかもしれない、などと思う。叔母のことを思い出したのは、めまいの話がこの作品集に出てきていたからだ、と気づく。

めまいの恐ろしさは、果てがないところだろうか。揺らいで、ここに「ない」という今しかない、その「無さ」に抱きとめられるばかりの、出口のない苦しさ。苦しさのなかにいるしかない苦しさ。

何かがわずかにずれる。ほんのわずかなのに。わずかなずれを取り戻すことが出来ず、それが重なって、どんどんずれる。取り返しのつかないところまでいってしまい、床にころがって雲を見てしまう。雲、とたしかに思ってしまう。めまいのうちにとどまらなければならなかったのに、ずれているというたったひとりの、たったひとつの確信の瞬間のうちにとどまらなければならなかったのに。