憎んでいたのに、けっきょく最後までその会に残ったのは彼女だけだった。赤いセーターにひっつめた髪、皺のないきれいな額。死んだその女と同じぐらいの年齢だから、もういい年のはずだ。額のほかにはくっきり皺が刻まれている。
こんな時期だから、密やかにひらかれたお別れの会だった。ぱらぱらと思い思いの花をもつひとらが集まり、白い月の下に温もり、ぼそぼそと話を交わし。話を交わすうち、誰もそのうち自分が自分の話をしはじめていたことに気づき、それではと言って去ってゆく。女は一緒にいるひとが自分の話をしたくなるような、そんな雰囲気をもったひとだった。
何かの折りに彼女は問われて、その女を憎んでいたときがあったと語った。詳しくは語らなかったけれど、最後まで何かしらのかたちで憎しみを抱えていたのかもしれない。
最後まで。その最後は突然に来て、その最後を生者である彼女は受け入れるしかない。
女が死んでしまって、彼女のなかには大きなものの大きな戦いに負けたあとの長いけだるさのような、甘いような苦いような気持ちが重く残っていた。
彼女はその女とは正反対のタイプだった。そして、もしかしたら正反対のタイプだから憎んでいたときがあった、ということにしておいたほうがみんなにとってうまく収まり辻褄が合うということだったのかも。
彼女は誰の話も、誰もがしはじめるそのひと自身の話も、最後まで辛抱づよく、というか、ほんとうに興味深そうに話を聞いていた。
暗い壁に背を冷やし、彼女がときどき透明の大ぶりのグラスで飲んでいたのは水だったか、お酒だったか。声は聞こえなかったけれど、泣いて泣いて、うつむいた額しか見えない。皺のないきれいな額。