今さら、と半秒ほどをただよってのちにヒメツルソバを見下ろす
オレンジの濡れた小さな箱ひとつ朽葉の暗いかたまりのなか
いちばん楽しかった、あの夜 大雨で全身で泣く兄の真似をして
赤い遊具ゆっくり冷えてゆくだろう わかるし、わからない 今もそう
そこは誰の住んでいる街 幽霊と昼と孤独の住んでいる街
水を継ぎ足せば夜きてあやまちも愚鈍さもからだに容れたまま
疲れたら松の香りをつけていた人の仕事の仕方を思う
エピソード3あたりまでは肩入れをしていた女を疑いはじめる
(かばん」2022年2月号)