日記

とみいえひろこ/日記

別の話

別の話

 

 

紫のダウンジャケットぶかぶかのゼリーみたいな子が泣いている

 

オレンジの布いちまいを透けてゆき物語る者はいつも内側

 

あの空の重たい色がたまらなく色っぽいこと指さして言う

 

ぼんやりと思い出す昼 幸福で愛するだけの手であったこと

 

東寺駅にずっと夕暮れどうやって大事にすればいいか分からず

 

世知辛い 世知辛いねと口にする隅にしゃがんで見えないままで

 

お互いに別々の話していたわたしは今すぐ黙りたかった

 

席ひとつあけて如月聞いている自閉症者の声の穏しさ

 

 

(「かばん」2024年4月号)