日記

とみいえひろこ/日記

2022.12.08

そのひとの手には まだ若さがあった

待つことのきずあとが 深く残る 手だけれど

ひとの二倍も 時間にいためつけられた 手だけれど。

血の気のうすい白い手は 黒いドレスによく映えた。

中庭に独り坐って 沖に消える船の一隻一隻を 見つめていた。

 

「夕べの横顔」

リッツォス 中井久夫『括弧』(みすず書房