白ければ白いほど得体の知れない味がする。と、べろべろに酔った頭で声を聞いたような気がする。大きなバニラの花が咲いていた。もっと遠回りすればよかったのに、どうせ辿り着けないのだから。どうせ捨てられるのだから。怖いところをひとつ過ぎて、もっと怖いことが口をあけて待っている。
大きな雲がひとつ、曇天に浮かんで穴の役をしていた。
もっと遠回りして会いに行くのがやり方だ、それは分かっていて、遠回りするための身体を安物の錘で埋めてしまうから身動きできなくなるのだ。間違った身動きをしようとする。その身動きができないように安物の錘をたくさん買ってしまう。それを身につけてしまう。今日はギリギリの遠回りで、ギリギリ捨てられなかった、間に合った。
今日明日は使いものにならない身体だろう。昼日中をまたここにこうやって座って休んでいる。ここは安全だけれど、どこに座っても座っているだけで酔う。座っていなくても止まると酔うから、ずっと階段を走って降りている。自分の酔いの芯のところへ意識を向けていく。常なる傾きと揺れにいつ振り落とされるかと構え、振り落とされないように床を探しあてようとし、しがみついている自分が分かる。酔いがひどくなり、意識を向けるのをやめる。
どのくらい遠回りしたらいいのか、いつも手探りで、闇雲だ。足りないということだけは分かっている。辿り着くということなどない。ないのに。身体のほとんどは怖さの成分でできている。怖さから目を逸らし、ほそぼそと気にし続けて、弱く弱く、徴に触れ、片時も離さないでいること。静かにさせていること。
白ければ白いほど、辛い、苦い、ゆっくりになる。それは自分の経験で分かり、得たことだった。効率が悪いと知っていても、もう駄目だとわかっていても、夜まで飲むことが必要なときもある。
白ければ白いほど得体の知れない味がする。と言った声が何だったかを確かめることはもうできない。聞いたとき、わたしはそうは思っていなかった。犬みたいに、言葉の意味は分からないで声を聞いていた。犬みたいに。