日記

とみいえひろこ/日記

ガムを噛むみたいに

百日紅の色ふかくして雨つづく階下に人の死にたさのある


夏冷えの耳揉みながら撫でている戦いのさなか濡れた枯葉を


水のにおい水のにおいにひたされて窓辺輪郭くらくなるころ


うどん屋の明るいひかり吸うような時間がしんと流れ夕方


白くなる信号の下待っているあってもなくても良い役として


ガムを噛むみたいに、むかし読もうとしてそのままだった薄い小説


目を瞑りつくる小さな暗がりに蜂一頭のふるえやさしい


波よりも波の色たたえてひそか狼の記す日記の文字は

 

 

 

(「かばん」2021年10月号)