日記

とみいえひろこ/日記

両腕

除光液の苦い香が解き放たれて明日から寒いと聞いたとおりだ


崩されるほうでも崩すほうでもいいオレンジの窓に閉じ込められて


どこまでも引くことの出来る引き算の蜜柑ジャム煮詰めるほど光る


両腕を後ろにまわし待ち受ける清濁を併せのむつもり


燃える部屋閉め切ってどの子もひとりポテトチップスの塩にまみれて


追い縋るみたいにすすき被さってすすきの姿でなくともすすき


たとえば遠い長崎が胸に棲みついて離れぬような心を持てり


ざりざりと冬坂、ひと月ぶりくらいあなたと糧について話した

 

 

(「かばん」2024年2月号)