モノには出来るのに、人には出来ない
京都まで出ることも今はなくなって烏丸の地下はいつまでも暗い
柿灯る路傍だろうかサイレンの赤とほんのいっとき交わり
青い朝運び終えたらうすやみにわたしは山羊のように疲れて
こんな野に忘られて捨ておかれたい夜には光る唾がながれて
スカートの裾持ちあげて渡るときものものの影のかなしみ入る
ずっと一緒にいたいのですと梔子の焦げたところに吸われるように
この塔のうちがわは時間が止まる ときどき、こうやって、息をする
目の前にごとんと置くこと重篤な果実を放っておけないように
(「かばん」2021年3月号)