きみが死ぬものがたり隣りに読めば目のふちの赤は何に通じる
馬のほか誰も辺りにいない夜 布を裁つとき呼気長くして
おおかみの濡れたにおいの居残る夜 と思えばふいに部屋がすずしい
玄関におそろしく黄色い花が大きく咲いて揺れてしまうよ
黄の花に照らされ綱を引くものと引かれるものと影ににじめる
いち、に、さん ゆっくり数えたら消える いち、に、さん ほんとうに消える
川に小舟 くちぶえとほそい鈴の音かエンドロールの暗闇のなか
鰓はおもう水の置かれた部屋に来るむかしむかしに別れたわたしを
(「かばん」2021年6月号)