日記

とみいえひろこ/日記

2022.02.10

「ともしび」(監督/アンドレア・パラオロ)。原題は「Hanna」、この人そのものの映画。

生活音としての衣ずれのあの渇いた、ひりひりするような音や、35ミリフィルムの親密な感じ。自分の息の音が気になってしまうくらいの親密さ。覗き見している時間。

地下鉄のシーンが印象的だった。地下鉄にはさまざまな状況のさまざまな姿のひとがいた。化粧する女、怒り泣きわめく異国人、とにかくいろいろいた。乗り合わせて、見てしまう。そのいっときの姿は、そのひとの内面が剥き出しになっている姿のように見える。そしてそれはたしかに内面なのだと思う。けれど誰も、たまたま乗り合わせた外の人に自分の内面を見られるまでに至る、彼女らの何も知ることはない。

乗り合わせて、見て、日常と悲痛を抱えるアンナは、乗り合わせて、見て、日常と悲痛を抱えたまま帰る日々を過ごした。

過ごして、抱えきれないものは溢れるから見える。乗り合わせに、見に、悲痛を、たとえば、揺らすために、見せるために。地下鉄を下り、深く下り、待つシーン。