むしょうに、とひらがなで書く思い方呼び出す むしょうに出て行きたいと
小説の好きなところはどの顔も書かれていながら見えないところ
わたくしの空虚を押し広げるために浴室に読むものは濡れたり
そのひとの晩秋おもう残されてざらついた布のようなさびしさ
タクシーの深くに沈み見る夜のやさしさだろうか終りというは
階下にあったひとつ怒りは隠されてすずしい風が低く流れる
スロット屋の自動ドア遠くひらく時ざあざあ降りと思う一瞬
違うから言い直すときもう一度みずからに聴かせる、また違う
(「かばん」2023年12月号より)