犬
髪を噛むけものをつつむ夜が来てここにいつまでいないといけない
蜜をもたないからだで仰向けにおもう やさしいさびしいことを
金木犀のにおいの果てた場所に棲むあなたにいちにちだけ会いに来た
会いにゆくときは必ず色のある水を携えすこし畏れて
よこがおにぎゅっと溜めいるたましいか遠くとおくの羽ばたきを聞く
金色の毛をそよがせて人の居ぬ暗がりに自分だけで終わらす
人間といるの楽しい悲しいの緑に光る暗がりに居て
友だちの髭の義しさ これからも通じ合えない隣人でいる
(「かばん」2021年2月号)