日記

とみいえひろこ/日記

二月→八月→一月

繊細に書き分けられ書き直されて ひろしま ヒロシマ 広島 hiroshima


緑濃き園のめぐりをひしひしと窪みになってそこで掃くひと


八月のなかごろ、桃を食べているときにぜんぶがだめになって


   *


爆心地、女工ばかりの被服支廠、内部の写真、その子、その子を産んだひと、


   *


何年か前のわたしが三月のくもり日花束買いし駅にて


ガラス戸の傍の椅子に腰かけていた 青い花束をテーブルにのせ


このままでも逢えないままでもいいような そうしておもいの池をぬくめて


それは何 どういうつもりでここにあるの花がこんなにいたむのに夜に


金色の葉よりも冷えて髪留めが冬陽にとおくひとの音をきく


忘れたら困る困ると両腕をうしろにがっしり掴まれたまま


三叉路にいつも掃く人ひっつめた髪で屈んでものを見定め


徹さんとむかし渡った橋の画像 片ほうのあれのない徹さん

 

 

 

「かばん」2021年5月号