しみしみとピーマンを焼く夕方に痛むところを探りあてたく
みぞれのにおいウォッカのにおい混ざり合う記憶のどこかしんと静かに
花、秋のはじまりに似合う花ゆれる離れた場所ですばやく簡素に
舌打ちに満たない音を響かせて犬が水飲む秋のめぐりに
爪と爪ふれあうときに誰も見ない どんな秘密も決してばれない
がまんする誰か必ずいることの無言にラテの泡のふくらみ
十月の夜だ 黒い川のほう見に行くためにここを出たいよ
話すこと話さないことあらかじめ決めて秋風ここに入りくる
(「かばん」2022年12月号)