綿雲が見るもの
受け取ろうとしていた手なのか渡そうとしていた手なのか鳩の向こうの
ぬいぐるみに見ていて欲しく嵐来るだろうターンにこちらを向かせる
オレンジの触れてはいけないもう一度傷つくだけのダウンジャケット
陽の当たる場所にいくつか綿雲がこの先もここを出られないと知る
咽喉にまだ枯草のするどさこめて発つ時ひとが置いていく夜
こんなにも隣りにいないはずなのに耳にやまない蜂のはばたき
ときどきはクリーム色の部屋へ来てながく傷んでいる喉見せて
青い朝には青いシャツ。はおらなくても何も変わらない脆い青いシャツ
「かばん」2023年6月号より