日記

とみいえひろこ/日記

信用できるものは怖いもの

冷えた風持ち込んで去ってゆくだけの端役の男の声低くして

 

窓になる心で声をきいていた途切れたり呻いたり人はする

 

もうここでやめたい鼠渡れずに渡ろうと思わなければよかった

 

すみれ色の長いスカート風を知る嘘をついたら報いを受ける

 

全部つじつまが合っている すごい雨の音 髪に躑躅の香りが沁みて

 

どんなふうに帰ってきたのかオレンジの香りを少しだけ髪につけ

 

怖いもの伝えあううち眠くなるだろうから最後までここにいて

 

風がゆき陽のにおいばかりが残る 信用できるものは怖いもの

 

 


「かばん」2023年7月号より