あるのに、と思う いつも黙ってがたがたしていて悔しくてくやしくて
それだけの話だったと思いつつキンポウゲ摘む ひとと別れて
ほそくほそくすくなくなって消えかかる思いの芯の見える寸前
首と目でいらないことを示しいる いいんです 今は わたしには
髪をほどき食べる あなたはひとりぶん 冷めたなんでもないものを
きょうだいのように向こうの岸に そう はかなくすわり水辺を翳す
くらき草としてあり眉を引くときに快楽のかすか流れ込む場所
先にある苦しいような暗いことばみずうみに落とす耳の内側
(「かばん」2020年11月号)