こわいものが変わった。こわいものの総量は変わらない。こわいものそれぞれのこわさがあり、どれもわたしを放っておいてくれない。こわいものが多過ぎて何も終わらない。付き合いつづけるから少し休んでいいか、休みたい、と言って座り込んだら、こわいものは煙のように首のうしろをひとまわりして撫で、どこかへ上っていった。
座り込んだところにもこわいものはいる。座り込んだところにいるこわいものにはわたしは多少なじみがあると思っている。だからこそ嫌で、できれば座り込みたくなかった。
座り込んだわたしを休ませているあいだに、こわいものたちはそれぞれ体温や質感を変えた。こわいものはひとつひとつでもあり、全体でもあった。付き合いつづけるからと決めて、わたしの約束を告げたものは、すべて消えてしまった。撫でていったのはたぶんさよならの挨拶だったのだ。
戻ってきて、今一緒にいるのはべつのこわいもの。
上っていったこわいものはわたしを休ませた後にたしかに首のうしろに戻ってきたけれど、以前のようなこわいものではなくなっている。
そこに見えているのに。こわいはずなのに、別のこわさになったのだろう、わたしの知らないものになってしまった。こわいということだけは分かっていたと思っていたのだけれど、何も分かっていなかったのだ。目をあげると、目の前にもいる。今まで見たことのないこわいものが、知らないこわさで、ただよっている。