日記

とみいえひろこ/日記

2021.09.14

白く明るい、すきまのある空間にあつまり、エスカレーター、廊下、個室へと順番通りに進む。待つ時間。待つ時間。待つ時間。待つためにつくってきたようなつもりになっていた時間。腕を出し、しずかにうつむき、もう再び会うこともたぶんない人がなんでもないことを話しかけてくれ、すこし話す。それぞれのかすかな痛みを受けとり、またばらばらになって帰る。自転車の車輪の空気がいつからかほとんどなく、妙にゆっくり帰った夜だった。

なくした声。抑え込んだ声。消えた声。そこにふっと落ちていて、睨みつけてくる声。なんだろう、身体的に何か抑圧されたり障害になるものを抱えていたんだろうか。執拗にそれらの声を聞き取ろうとしているみたいでもあるし、でもその声は聞き取ろうとしているものの内部にあって、もうとうに過ぎたことなんだということも、過ぎたことがそれ以上のなにかになることもなく、あとから分かることももうとくにないんだということも、時すでに遅しということも知っている。苛立っているような、かなしんでいるような、怒っているような、自責に囚われかりたてられているような、低いうめき。

 

死は易くして水満たす洗面器

胸に埋めた嬰児が銀のさびしさもつ

(林田紀音夫)