夜更けてひとがダンスの練習をつづける映像 しんとする夜
口笛でふらりと闇を切り裂いて分け入るように曲ははじまり
春の夜のえぐみをふくむ風でしたみずうみをつくるために動いた
ない場所にないブランコが揺れている風重く降りてくれば六月
いつかわたしいつか誰かであったころ机に置いた林檎のにおう
撫でられてはらはらとほどけゆくだけ撫でられて撫でられて撫でられて
古い庭 真夜中が扉を閉ざす子どもをひとりきりにするため
口笛が遠くなるまで聞いていたほそくほそく消えない口笛
(「かばん」2021年7月号)