日記

とみいえひろこ/日記

2021.04.15 バレネスク

Ballenesque.

バレネスク。

この言葉を明日には忘れるのだろう。お金があったらこの言葉を覚えておくための写真集が買える。

 

白い毛につつまれた小さな生きものたち。細長い尾の先にいくにしたがって毛がなく、ぶよぶよの渇いた膚が見えている。白い毛の下はぜんぶこの醜い膚なんだと思うとぞっとする。

ネズミみたいなその生きものたちが、仰向けで布団のなかではんぶん死んでいる人間の顔や首のまわりを這い回っている。掛け布団のなかでも生きものたちはこの人間の腋や腿をはい回っていると分かる。

生きものたちは、本人ですら一生気付かなかっただろうだろう人間の体のくぼみというくぼみを見つけ入り込み、くぼみのその底以外のすべての位置を上り坂として這い上る。そうやって絶え間なく動く。人間の細い体の首や腋で生きもの同士はすれ違い、白い毛を音もなく(本人たちと、死にかけている人間だけに聞こえるくらいの小さい音をさせ)こすりあわせて、めいめいに自分が目的とするくぼみの底へ、またくぼみの上へ向かう。

生きものたちは何を目的としてそんなにこの人間の体を這い回っているのか、この人間が死んだら食べるつもりなのか、這うことそのものに快楽を覚えているのか。

そうしないと生き延びられないことを知っていて、なにかに突き動かされながらひたすら這い回るのをやめられない中毒者たちと、みずからの生の動きをくぼみや坂や湖として差し出し、ただの空白に変化してゆく、その時間を抱き抱かれている体と。