日記

とみいえひろこ/日記

2021.06.05

犬が噛んでいたのは、「フォト・ドキュメンタリー」と書かれた赤い新書と、人の記憶と場所について書かれた光の草の色の小説。すこし古い時間と、古い時間と、今の時間とが混ざる部屋にいる。噛んでいたくちのなかに手を入れる。紙をたどっていくと少し古い時間があった。わたしがむかし最善で最低限のことと思い、したことだった。噛まれてくちゃくちゃになって固まり、ベランダに転がっている。わたしがしたこと全部が、明らかに、相手を追い詰めてしまったのだと今になってわかる。そのまま、時間と一緒にかたまって今になってしまった。

もうひとつ、別に流れる古い時間。別の古い時間をひらき、送った。やっと。これで届けばいいけど、もうとっくに終わったことなのかもしれないとも思う。またやってしまったのだと思う。また。

もうひとりペアになるわたしがいればいいのに、わたしの苦手なことがぜんぶ得意なもの、わたしとまったく違う思い方をするもの。

読めないような文字を書き、翌朝それを解読して打ち込む、という方法のような儀式のようなものにとりつかれているみたい。やめられるはずなのに、とても苦しい。一度だけ、殴れと言葉に出して伝えたはずだと思う。覚えていると思う。覚えていないかもな、とも思う。でもそのときにぜんぶわかったから、それでよかったと思う。とても。わたしはそのときはじめて、相手の出方を待つ、ということをした。それはわたしを殴らない。そのとき、ちゃんとばらばらになった。