日記

とみいえひろこ/日記

2021.11.13

ものを拾えるとき、拾えないときがある。拾えないときがほとんどで、拾えなくても拾えないなりにやっていくにはコツがあるのだと思う。たとえば、拾えるときに、この先に来る〈拾えないとき〉でも拾えそうなものを残し周辺を拾うことなど。希望を編み出して残しておくということ。その力があるときに。そして、コツより前に段階がある。

さいきんは、流し見でものを観ている。映画「ムーンライト」(バリー・ジェンキンス監督)。暗い場所がある。暗い場所はいつも、あらゆる隙間から月の光にしのびこまれ、多面的に照らされる。「何も知らないくせに」。何も知らない故に。ひとの人生などあっさりしたものだ。誰も、自分さえも、心のなかまでは、心の外さえもわからない。たったひとつに絞られた物語が終わり、たったひとつに絞られた行き先が消えて、青い子が駆ける。月の光は、彼のひとつの面を視た後のわたしの胸のなかでふくらむ。水になるまで、ふくらむにまかせることもできると知っている。今まで自分の身に起こったことなど遠くひとごとのように感じる。