日記

とみいえひろこ/日記

2022.02.25

『私のように黒い夜』ジョン・ハワード グリフィン 平井イサク/訳(ブルース・インター・アクションズ)

相手の立場になってみる、というたったひとつの方法をシンプルに実行することで見えてくる風景について書かれている。「相手の立場になってみる」ためにした工夫は、自分の顔を黒く塗る。これだけのこと。

相手の立場になってみる、というのはどういうことか。それが、なぜできないと感じるのか。何を自分に対してごまかしているのか、なぜ見えない状態になっていることを自分が受け入れているのか、ということが見えてくる。かんたんに思いつくシンプルなことに思いを馳せ、考えるだけ。自分が思いを馳せて考えることができるための工夫をすることだけ。

表紙の写真はとても印象的だった。鏡をのぞき合うふたりの男。ふたりの男は〈実際は〉ひとり。顔を黒く塗った男が鏡をのぞくとき、顔に光が当たって白く見えている。真白で、〈実際〉の顔よりも白く見えているだろう。どちらが〈黒く塗った〉顔だろう。どちらが〈実際〉の顔だろう。写真だから、どちらが〈実際〉の男でどちらが鏡の中の男なのかわたしにはわからない。写真を撮った目があり、手があり、目と手の存在を感じながら写真を見ているこちらにわたしがいる。写真全体は空のような、または海のような、世界全部のようなbluesで覆われている。

原題が「Black Like Me」。これが「私のように黒い夜」と訳されるに至るまでの、言語化されたものと読む私の出会い、理解のいきさつ、鏡の方法。