日記

とみいえひろこ/日記

鑑賞と障害

小林美代子『髪の花』

「君、おかしいじゃあないか、昨日まであんなに病気じゃあないと頑張ったのに、今日、先生の言う通り全部病気でしたという、そんなに急に判るはずがない、誰かに入知恵されたのでしょう、どうして昨日まで事実だと思ったことが、今日は病気だと判ったのです…

ピエール・パシェ 根本美作子/訳『母の前で』

けれどもわたしはこのリストに何か欠けているような気がする。そしてそれが何なのかをはっきりさせ、それを定義する責任が自分にあるような気がする。そうでなければ、わたしは最後まで自分の役目を果たしたことにならないだろう。 ピエール・パシェ 根本美…

ピエール・パシェ 根本美作子/訳『母の前で』

ピエール・パシェ 根本美作子/訳『母の前で』。とくに後半になって私にはすごくよく、分かる気すらしてしまい、引き込まれて読んだ。ひとつの位置から、あるひとつの流動的な関係が、適切に、近づいたり遠ざかったり、うちに入れたり取り出したりしながらよ…

『マイ・レフトフット』ジム・シェリダン/監督

『マイ・レフトフット』ジム・シェリダン/監督。観た感じを引きずりながら、「プライド」、自尊心、自尊感情、という言葉をモチーフとして、思う機会があった。観念があって、名前のあるものになって、なにか、目安として測られる、量られるものとして理解…

ドナ・ウィリアムズ 川手鷹彦/訳『自閉症という体験』

今日は時間があり、これはこれでとても不安。でも前ほどのわなわなする感じではない。仕事日誌をつけたり、現実をとらえられるためにできることはして、これくらい。 ・「感覚」と「悟性」にいったん言葉として分けて、名付けた上で話が進む。「悟性」は「知…

2024.04.05

返事を待ちながら。気がかりの件を考えようとしながら。返事がきて、なんとか返したものの、ぐずぐず気になりながら。 『サントメール ある被告』アリス・ディオップ/監督。データコピーしながら、しゃがんだまま全部見通してしまった。観終えたのが2時。 …

2024.03.25

ものすごく忙しく、いくつかのことを考え、一気に歳をとった気分。昨日中に送らなければいけなかったものが、もう送れない時間になってしまって、でも、朝見直して送ることにしてよかった。 『英国王のスピーチ』トム・フーパー/監督。後半、とくに、奥深く…

『カッコーの巣の上で』ミロス・フォアマン/監督

『カッコーの巣の上で』ミロス・フォアマン/監督。 ・ダンスの時間がとても切なくて、胸に残っている。それぞれが、甘えたい胸に甘えるだけの時間。適切に受け止められる時間。あの時間だけが特別で、軽くて、自由さがあるようで、夢のなかなのにひしひしと…

2024.03.12

新しいカテゴリーをつくった。ここでいう「障害」はあなたと私の間に起こる、存在していて動く、障害すべてのこと。映画を観る時間がつくれるようになってきて、「障害」がテーマになっている作品ばかりじゃないかと知った。それならきっと、小説にもずっと…

森本淳生 ジル・フィリップ/編『マルグリット・デュラス〈声〉の幻前』

対象αとしての声は、発話されたシニフィアンの連鎖としてのパロールには還元されない。ラカンが声を対象αと呼ぶのは、声というものが、私たちの欲望がそれへと引っかかることがある、取り替えのきかない(かけがえのない)対象でありうるからだ。とすれば、…

2024.03.09

アルモドバル監督の映画を、続けて観た。ひとつはいつものように途中で話のつながりが分からなくなってしまって、また観ようと思う。 『オール・アバウト・マイ・マザー』、また観たい、いつか。いつもこの人のつくるものは、複雑で、多面的で、多層的で、襞…

2024.03.08

そんな時、怒りを爆発させた長男はストライキを始めた。家族は、長男の怒りでようやく分った。障がい者の長男が一家にとってどんなに大切な存在であったのかを。長男がいなければ自分たちの人生もない、ということに家族はようやく気づいたのだった。 普玄 …

2024.03.05

普玄 倉持リツコ/訳『痛むだろう、指が』。売ってしまってもう手元にない本。 少しずつそれぞれの役割がずれている、ずらされている、という感じがこちらに残る、それも心に残る理由のひとつだったと今になって思う。役割がもう少しでもずれると大きく傾い…

『タロウのバカ』大森立嗣/監督

最初からきつい、ずっとしんどい映画だった。光の感じと、衣裳がいいなと思って、服の感じを見ていたら、「穴」が心に残った。穴のあいたセーター、首に巻いた黒いリボン。傷口がどんどん開いて、最後はほとんど穴のタンクトップ。そう思うと、川で雨が降っ…

2024.02.27

ほとんど毎晩、ブランコを漕ぐのをわたしだけ見ている。今夜はけっこう長いので、一度帰って見に行った。寒いけれどもうコートなしでぎりぎり行けるくらいで、小さな小さな白い花がいくつか咲いていた、と、出るときに見たのを思い出しながら。今夜は、余裕…

2024.01.31

台所の灯り、長く真暗なままだったのが数日前から点くようになり点けることにした。明るくなったら見えるものがたくさんあり、こんなに、こんなだったんだと実感している。何度めかの実感。白日のもとに晒されたもの、晒された無理さ、動けなさ。 食べて、寝…

2024.01.25

『さらば愛しき大地』柳町光男/監督。ほんとうに切ないいい映画だった。前半流し見してしまったからつながりもわからなくて、もう一回流し見。砂浜で静かに背をまるめて蟹を食べるシーンとか、心に残ってしまう。どんどんものがなくなっていく描き方も追い…

2024.01.19

『茶飲友達』外山文治/監督・脚本。 ・最後のほう、ばらばらばらっと展開したところ。わあ、と静かに思いながらただただ見ていた。 ・ルールと、良い悪いといった価値は関係ないと、ほんとうに思う。ルールはただただルールで、いちばんはじめのところでル…

2024.01.18

長く、このなかで何をどう思ってもいい、ということを言い聞かせ確かめるためだったのが、このなかでわたしは何でもどうとでも思うことができるはずだということをみつけていくためになっている。ように思う。実際に、何でもどうとでも思うことができるんだ…

2024.01.17

私は自分では何も考えられないし話すこともできない被害者として扱われました。警察も地方検事も被害者アドボケーターも、明らかに私のことを典型的なバタードウーマンとして見ていたし、そう理解されることで、私の行いも発言もすべて色眼鏡で見られている…

2024.01.16

小西真理子『歪な愛の倫理 〈第三者〉は暴力関係にどう応じるべきか』、李承雨 金順姫/訳『植物たちの私生活』、岩川ありさ『物語とトラウマ』など。 また同じところ、何周目だろう。新しい同じところ。何かから逃れるために別のところに行って同じものを見…

2024.01.10

今日はざわざわする日。ここ数日の期間は。 王子は女魔法使いのことを知っているのに、女魔法使いは王子のことを知らない。そのせいでラプンツェルは、女魔法使いに対し不正直にふるまっている自分を責める。とはいえ、実は王子に対しても不正直にふるまって…

2023.12.28

三井さよ『ケアと支援と「社会」の発見 個のむこうにあるもの』、中村祐子『わたしが誰かわからない ヤングケアラーを探す旅』、オルガ・トカルチュク 小椋彩『昼の家、夜の家』、小泉義之『弔い・生殖・病いの哲学』など。 こういう時期独特の動き方、這う…

2023.12.05

つまり、当事者である「あなた」を研究することは、「あなた」が生きている場所から、困難や問題を抱えている「あなた」の内側からの体験について「語る-語られる」という関係ととらえてもよいでしょう。 そして、「語る-語られる」という関係の中で、一緒…

2023.11.11

原田青『Kくん』、信田さよ子 上間陽子『言葉を失ったあとで』、トリン・T・ミンハの書いたもの。最近電子書籍で読んでいるものがあって、一行ずつ基本的にそんなにとばさず規則正しく読んでいく感覚を覚えた。 ここと、そこの、あいだにいる。関わり方とい…

2023.11.07

2016年に「かばん」誌に提出した文章。 みつめ・られる(あう)・たんかとみいえひろこ 大阪は震度四だったみたいですが、地震怖かったです。会社の帰りに見たいつもの川が、異様にきれいに見えました。まだ自分の感覚がすこしふわふわして、パラレルワール…

2023.11.07

つまり、生きるということは「自分の行動の責任は全て自分にかかってくるんだ」と恐怖するよりも「自分の行動の責任はすべて自分で負って行くことなんだ」ということに気がついたとき、私はその恐怖から解放され、大人として自由に生きていくことへの希望が…

2023.11.05

助けてもらうことについて。助ける、助けてもらう、という語が適当かどうかは置いておいて。 やっと、ほんの少し、手応えというか、コツ、骨みたいなもののありかが分かってきたのかも、呼吸が合うときがほんの少し増えてきたのかも、と思った。 助ける側の…

「アララト 誰でもない恋人たちの風景 vol.3」

越川道夫/監督・脚本「アララト 誰でもない恋人たちの風景 vol.3」 感想つづき。 たとえば、寄り添う、という言葉は私にはとても苦しい。拒否したい。こんなふうに何か、言葉のひとつひとつを吟味していくと、わたしが間違って受け取ってしまっているものが…

2023.10.23

越川道夫/監督・脚本「アララト 誰でもない恋人たちの風景 vol.3」 ほんとうによかった、こういう映画が観られるんだったらもういい。何があっても、何もなくても。掻きむしられる、気持ちになって、途中で無理になっていったん休憩したりした。あらゆる思…