息子とふたりきりになると、後ろめたさからこう話しかけた。
「最初、あんたのこと好きじゃなかったし、いまもそうで、ロバートなんて呼んでるし。ほんとにかわいそうな子」
残念だけどどうしようもない。とにかく好きになれなかった。傷つきすぎていた。疲れていた。
そういう気持ちは心の奥に隠していたが、どうしても赤ん坊にキスをする気にはなれなかった……。ありがたいことに赤ん坊はほぼ一日じゅう眠っていた。
「母であることを学ぶ」(『ジーン・リース短篇集 あの人たちが本を焼いた日』(西崎憲・編 ブックスならんですわる/亜紀書房)
このあとつづく話のなかで、彼女にふと、ゆるせる時が来る。
わたしは読み終わる。読み終わってそうして、それで終わりではなく、何度も何度も彼女らがこれを繰り返すだろうことが分かる。もっとひどいことになる時が来ると分かる。もしかしたらいつかほんとうにゆるせる時が来るかもしれないし、来ないで終わってしまうかもしれない。彼女がとどまり時を引き延ばすことで、ロバートじゃない子のほうは逃げきることが出来るかもしれない。彼女がロバートじゃない子の名をさがしつづけることで、逃がし切ることが出来るかもしれない。