ものすごく忙しく、いくつかのことを考え、一気に歳をとった気分。昨日中に送らなければいけなかったものが、もう送れない時間になってしまって、でも、朝見直して送ることにしてよかった。
『英国王のスピーチ』トム・フーパー/監督。後半、とくに、奥深く、綿密に積み重なってきた/積み重なっていく、傷のありよう、人のかなしみが、ずっとあの世界に流れていた霧のように見えてくる感覚になり、くらっとしてしまう。霧はずっとあって、あの連鎖の理屈がわかってきた途端に目の前を一気に被う。被ってそのなかにずっといたことに気づく。
縦軸に、ひとりひとりの生き方。ひとりひとりの私的な、「運命的な」抑圧、受け止めきれない困難、恥と尊厳に関するぎりぎりのバランス。たくさんの傷。横軸に、第一次世界大戦、その後にさまざまに負ったトラウマのかたちを見てきた目。目は今、第二次世界大戦を受け止め応じる声をもつ者を支える目になる。目は、はじまったからにはその先に再び同じたくさんの傷がひらくことをも見ている。声は、代わりの代わりの代わりの代わりの代わりの…たくさんの代わりのものを受けとめ、自他の傷をひらくことそのものとして声を出す。そうして、代わりのものがたくさん混じった傷だらけの本人でやっといられる、いる。私は兄の逃げ方も分かる。というより、こちらこそ分かる。
いくつかのことを考えたものの、いくつかのことを私はまともに聞いたのかどうか、見たのかどうか。
すべてを剥ぎとられた人間になって恥じ入りながら立っていたその場所に
もっと剥ぎとられた人間がひとり現れて 長いあいだ堂々と泣いた
「平澤(ピョンテク)」
到着したものたちが翼をたたむときには影が生まれる 到着のその場所に水があるならば鳥の声を聞くことができるだろうに 人が、ではなく あそこの空き地で一本の木が
「そういうこと」
キム・ソヨン 姜信子/訳『数学者の朝』
『ヘンリー・ジェイムズ短篇集』田中雅一 松嶋健/編『トラウマを共有する』など。