日記

とみいえひろこ/日記

粘土

空間に、質素な作業台。小さな、歪な、寝ているのか起きているのかわからない、妙な姿をした、粘土のかたまりがいくつか置かれている。空間がとどまらないように。灰緑の濡れたような色の粘土たち。おとずれる手たちが思い思いに触れていくため、みんなこんなへんな姿になって。触れているうちに何か思い出して、手はここを出て行く。

粘土は自己生成する。粘土のうちのいくつかの粘土がふいに消えた。もともとここにいるべきではない粘土だった。いくつかの、という概念ごと、いくつかの、と、ここにとどまる者はそう呼ぶしかない、いくつかの粘土は、あるいは、ぜんぶの粘土が、ここから消えてしまった。粘土だったものがあったはずの空間に戻ってきた今日の手が、ゆらゆら、ひらひら、影を流している。