日記

とみいえひろこ/日記

熟れた桃を食べていた

熟れた桃を食べていた、黙って。そこで、あ、乗り遅れた。と気づいた感覚があった。目が先に見ていた、いつのまにかわたしは見ていた。ぜんぶがだめになり、ほんとうに消えていた。そこからが長く、はじまりだった。

のこされて、サークルのめぐりを掃いているひと、ほとんど窪みになって、性別や年齢もわからなくなって。その姿が見納めだった。冬のこと。

そばにいた大人らしきひとが、すこし考えて、立ったままモノクロの傷口を捲りわたしに見せた。みんな急いでいたから、そのすきまに。大人になることは、目の前にあるいろいろなものを見て受け容れることが出来るようになることだろう。そういう体をもつようになること。もう大きくなったから、ちょっときついかもしれないけれどあなたに見せよう。大人は言って、わからないと唱え、氷のように冷え、遠のいてゆく。