先に、関係に名があって
それがなければよかっただろうな、と思う。それじゃなければ、よかっただろうな。名前のとおりにはうまくやれない。それはどちらもわかっていたはずだ。ただ、その名前がなければ関わることもなかった。名前のとおりにやろうとしたし、それが駄目だとわかったらべつの手近な名前をどこかから見つけてきて、その名前のとおりにやろうとした。そんな名前で踏み込んでくるのか、と片方は怒り狂った。すべて終わってしまったあとになって。
思い浮かべているのは「失敗」のこと。失敗でしかない関わりのもちかた、関われなさのこと。その、それに侵入してくる「今」のこと。否応なく関わってくる「今」の関わり方のこと。「今」の体の捩じ込ませ方のこと。強引さのこと。今、というのがすごく苦手、わからなくて。今、に関わるのが。名前が決まっているのに、そこを踏み越えてくる、揺さぶってくる。
言ひがたき悲しみもてば夜の空気あらあらしきまではなの香がする
わが声にかすかにときにこもりたる傲りのごときひびきを憎む
(玉城徹『馬の首』『樛木』より)