日記

とみいえひろこ/日記

2023.04.12

わたしは、あの出来事に関してこれまで感じてきた唯一の罪悪感を消し去った。あれがこの身に起こったのに――せっかくの贈り物を無駄にしてしまうように――それについて何もしなかったという思いを。というのも、わたしが経験したことに関して見いだしうる、あらゆる社会的、心理学的な理由を越えて、何よりも確信している理由がひとつあるからだ。それは、さまざまなことがこの身に起こったのは、それを説明するためなのだということ。

 

それと、わたしの人生の真の目的は、おそらくこういうことでしかないからだ。わたしの体、感覚、思考を、書く行為によって――言い換えれば、一般的に理解できるものによって――ほかの人たちの頭と人生のなかに完全に溶けこむ、わたしの存在にすること。

 

アニー・エルノー 菊池よしみ/訳「事件」(堀茂樹 菊池よしみ/訳『嫉妬/事件』早川書房

 

ふわふわ、ざわざわ、覆ってくるものに理由があるなら、自分がなんでそうしたのか、止まって確認しに戻って見に行かないところにある。それらがずっと霧のように追ってくる。

 

めちゃくちゃ怖い映画を観た。死んだ後、今までひどい行いをしてきたと分かった監督のつくった映画で、でも、ほんとうにきれいな映画だった。カメラは最後に小さな小さな世界へ帰っていった。その物語がぜんぶ内面で起きていることだったと示すように。鳥籠のなかにしまわれた鳥に自らを託しながら、また血にまみれた魚たちから存在を託されながら、水のまんなかに浮かばせられて生きて死んだ者の物語だった。水のないところに逃げる夢をみた。あたたかい沼地、自分の身体に。