日記

とみいえひろこ/日記

これ以上持っているのは苦しいと伝えてそれからやっと苦しい


話し出すときにはとうに溢れいてにおいたつクチナシの花みたい


ひと晩じゅう ひと晩じゅうって歌ってるようにその声聞こえてしまう


ふんわりと入ってくるから肯定と受け取っていた低いボイスを


もう何も 何も、と言ったそのあとの声を聞いてはいけないようで


くっついて離れられなくなっていていやな緑のマグネット冷ゆ


教わったものあるはずで何なのかわからないまま 似た街に住む


がさついた声の男のがさついた思い出をいつか聞いたことなど

 

 

(「かばん」2022年8月号より)