日記

とみいえひろこ/日記

2023.09.01

「影島/ヨンド」(ソン・スンウン/監督)、血だらけでしんどかった。防波堤にチャミスルの瓶のかけらがたくさん刺さった眺めは、そのまま彼の生きてきた道。そこから見ていたし、それに見られていた。そこがギリギリ歩ける場所だった。そこより内側でも駄目、外側でも駄目。

大池真知子『エイズと文学』、『LOCUST vol.4 長崎への困難な旅路』、小沼理『Swamp Journal vol.1』など。長崎はすごくうっすらだけ縁がある場所だと感じていて、少しこうやって知ると、逃げたくなったときに行く場所のひとつになる。そういう、架空の防波堤をつくる時間がどれくらいどんなふうに必要か、それぞれ違う。

 

そんなことずっと分かっていて、それが出来たらいいというだけで、細く細く絞っていって、穴をくぐりぬけて分かっていた答えがなんとか自分のものにたぶん確からしくなった、そのことだけ伝える。伝わるのはこんなものか、と思う。こんなに重ねてきても、こんなほんの少しで、さらに捻じ曲がって、わたしの持っているものとはけっこうぜんぜん伝わったものは離れてしまっている。でもこれでも充分だと思う。ほんとに、誰もがこんなものなんだと思う。今ほんとに渡せる答えはそれだけで、ほかの問いはわたしからは渡せず、ここに来る意味もないのかもしれない。と思い始める、思い始めていたことが明らかになる。どうにもならないところはどうにもならないまま残って。優しくないし子どもで、ぜんぜんだめだ、とよく分かる。

時間がなく自分の基準で間違って受け取ってしまい、失礼なことなどもした。と、後から気づいた日。ただ、自分の苦手なことが何かということや、だからどれくらい時間が必要かというようなことはよく分かるようになってよかった。

 

見る者と見られる者とは、融合して不可分のひとまとまりを成す。距離を置いて物体を見ることは、すでにその物体に働きかけること、それを変えてしまうことであり、みずからも変えられてしまうことなのだ。

リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』より

 

(竹内万里子「永遠の途上で」から)