日記

とみいえひろこ/日記

佐藤りえ「約束/秘密」(『チメイタンカ』より)

凡兆の秘密の庭に降り積もる払っても払っても消え残る雪

 

木の椅子と木のテーブルと木の窓の秘密の小部屋が心にはある

 

その椅子は片付けないで 置いておいて 誰が座っているかは秘密

 

 

佐藤りえ「約束/秘密」(編集・発行/花笠海月『チメイタンカ』)

 

 


現実を見て、現実的に考えたい。現実的にやっていきたい。これがここ数日、数週間、私が思っていることのひとつだった。

現実、といっても、私が現実と思っていることのほとんどが現実に満たない、はかない、都合のいいもの。現実を捕まえたと思った瞬間に、言葉になり、消えてしまう。その手前に、たしかに現実と出会ったと思ったのに。言葉になり問題がはっきりした途端に陳腐なものに回収されてしまう。見失ってしまう。だから、そうでなく、現実を見て、現実的に考えたい。現実的にやっていきたい。

 

ことばにも声にもならないものたちによって緊密に豊かに張り巡らされている約束/秘密から、ただの人間・私は外れてしまった、外されてしまった。捨ててしまった、置いてきてしまった。こういう感覚が、私のなかのどこかに残っているだろうか。

歌のなかで雪や椅子は現実にとどまりながら、読む側にいる私にもすこし透けて見えるようだと思う。見えるといっても、歌が指定する見え方で。外れたり外されたり捨てたり置いてきたあとの、心残りのような、すまなさのような、そんなものではなく、つよい恥ずかしさや情けなさのような、とにかく何もない疲れのような、それらで出来た私の現実が遅れて生まれてくるのを、この雪や椅子と一緒に見ている。私の現実、すかすかしてあやういこの現実。私にとっての約束/秘密のようなもの。