日記

とみいえひろこ/日記

ピエール・パシェ 根本美作子/訳『母の前で』

けれどもわたしはこのリストに何か欠けているような気がする。そしてそれが何なのかをはっきりさせ、それを定義する責任が自分にあるような気がする。そうでなければ、わたしは最後まで自分の役目を果たしたことにならないだろう。

 

ピエール・パシェ 根本美作子/訳『母の前で』

 

ほんとうになんでもない手続きのことでものすごく無駄な動きをして時間と手間がかかってしまった、かけてしまって、情けなくばからしい思いになった。ここ何日かは、自分の見積もりの1/10くらいのことしかできず、動けない。できるはずなのにできない。いろいろ実感した。

 

『母の前で』がとってもよくて、生き物の尊厳とは、静物の尊厳とは、存在に感じてしまう尊厳とは何なんだろうとよく考えたい気分になったり、『我と汝』を行き来してもっと行き来したらどこかへ踏み外していってしまいそうな、不思議な気分になったりする。

「母」というひとを定義するリスト、言葉でそれが確定できるとして、何かどうしても欠けているものがある気がするという(そういう文脈だったかどうか忘れてしまった)。欠けていると思うはずだという。

欠けているのは、そのひとを「母」と呼んでそのひとを見るわたしの気配、存在、そこにいるべきわたしなんじゃないかと、読者であるわたしに暗示される。暗示だと受け取るわたしが、この文章を読んだ瞬間に呼び起こされてここにいる。と気づく。気づいた瞬間にこの不思議な感覚を逃してしまう。

わたしがわからないわたし。わたしが把握できる範囲を超えた、わからない、どうしても見ることのできないわたし。目の前の対象、あなたを見尽くしても、あなたを指す言葉を尽くしたとしても、あなたという存在を知ることは決してできない、何かが欠けている、何かがあなたのエリアに残されていてわたしの手に決して届かない。それはとても決定的で、ものすごく遠い。

という直感とともに、あなたの守られるべき尊厳をやや侵食してしまったわたしの足跡、触れて残った指紋、何かがあると感じて思わず受け取るために伸ばした手の影…であったわたしの気配の気まずさ、後ろめたさ、過ちの感じが、そこへ行ききれなくてここに残る。「あっ」と思ってあなたのほうへ行ってしまったあとに取り残されてしまったわたし。時間に遅れ、取りこぼされ。