日記

とみいえひろこ/日記

2023.11.03

そのあと、いつものように闇のなかへ入る。あたたかい、自分のこれまでのにおいのなかに。白い、やわらかい足が闇から出ている。歩かないから足の裏がやわらかい。移行のための儀式、この足の持ち主にとってのそれは、このくらいひんぱんに必要なんだ、とあらためて知る、思う。わたしも少し分かる。まったく違いながら、同じ経験をした、している、と思う。そのとき、時間がわずかにゆっくりになる。

わたしのほうは今は、すこしうまくできるようになった。それも、わたしだけのやり方で。何も言うこともなく、関わることもなく、黙って離れていたいと思う。わたしがわたしとして思う。こういう感じの心の動き方、持ち方が、はじめてなのではと思う。はじめてではないにせよ、ほんとうに久しぶりだと思う。

思う、思う、思う…、と、外へ向けて、思う限りのことを、分かった、分かっていると思う限りのことをただただ説明している、それだけで、すり減って、嘘になる。何度も予想を語るうちに自分でも信用できなくなり実体がなくなる。なんにも意味がないところへまた来ている、どこで間違ったのかと思う。逆恨みなどによって生き延びる。

 

私が、迷ったりうまく考えたいと思っているところは、そこではなく、どうやったらこのものらしく、そのものらしく、ただ居られるか、というところかな、と思う。

 

これも、ぜんぜん違う。出どころが違う、ゆきさきが違う。わたし〈が〉どう思いたかったか、というあたりだと思う。黙って静かに弱い場所を見る、そのあたり。

聞く時間が生まれるとき、聞くものはこちら側に抱えてある弱い場所をたずねてゆき、曝す作業をする。傷口、触れやすく感じやすいところ、しまっていたところをひらき、ひらたくして広げ、地面に置く。

記憶違い、すれ違い、受け取りそこないが多く、タイミングの合わなさにこだわる感じ、消耗、遅れ、疲れの感じ。

熊野純彦レヴィナス入門』など。古本で、かなり線と書き込みがある、その感じと呼吸が合っていく。この人の盛り上がるところはここだったんだな、など。