日記

とみいえひろこ/日記

2021-01-01から1年間の記事一覧

2021.06.05

犬が噛んでいたのは、「フォト・ドキュメンタリー」と書かれた赤い新書と、人の記憶と場所について書かれた光の草の色の小説。すこし古い時間と、古い時間と、今の時間とが混ざる部屋にいる。噛んでいたくちのなかに手を入れる。紙をたどっていくと少し古い…

2021.06.02

その人がひとりすーっと、ぼうっと立っている姿がいちばんきれいと思う。ほんとはそれを選びたいけれど、やっぱり枠組みが違うからそうではなく、音を消して世界に入り、目が合ったもの。これしかないと思うものを一番に推し、送った瞬間、すべて間違った、…

2021.05.31

目をあけて起きていても全身が眠っている感じで力が入らず、できるはずなのにできないで提出を遅らせてしまった。 紀大偉作品集『膜』(作品社)。黙黙は音で示すとMOMO。とも違うけれど、近い音だとMOMO。黙黙という音は目にみえるかたちで表されない。この…

2021.05.25

『宣陵散策』チョン・ヨンジュン・著 藤田麗子・訳 オレンジの小さな本。このひとの書いたのをもっと読みたい。今日本語で読めるのはこの本だけ。 雲も風もなく、太陽はあんなに激しく照りつけているのに、どうして森は暗いのか。木に背をあずけて立っている…

二月→八月→一月

繊細に書き分けられ書き直されて ひろしま ヒロシマ 広島 hiroshima 緑濃き園のめぐりをひしひしと窪みになってそこで掃くひと 八月のなかごろ、桃を食べているときにぜんぶがだめになって * 爆心地、女工ばかりの被服支廠、内部の写真、その子、その子を産…

2021.05.21

川にあひ川のことばは愛するは去りゆくべしとみづのいざなふ 森岡貞香(『珊瑚数珠』(『森岡貞香歌集』(砂子屋書房)から) ことばに実体はない。結びつけようとし、ぶつけ、叩き、響かせ、もうだめ、とため息をつく頃、ひとつひとつ、そのときどきに鳴る…

2021.05.17

する人がそれをしないことをしている。しない、しない、しない、しない。しない、一生しないかもしれない。さまざまな成り行きで、それをするしかないことになった人が。する人がしないことをしている。しないぶん内がわでしている、そのテンション。しない…

あれはあなたの役

あれはあなたの役 あれはあなたの役だった。あなたにこの時間があった。あなたでなくとも、わたしでなくとも、その役は、その時間はあった。たしかに、も、もしかしたら、も、必要なく、猫背になり、暗いままのほうがいいと、わたしもまた選び、灯りをつけな…

2021.05.13

洗濯物を取り込むのを2日くらい忘れてしまっていた。昼に雨をみて、夜に大雨になって、面倒になったと自覚するのはもっと遅れて来た。シーツも干していたんだった。明日また洗濯しようと思う。 つながらない電話を何ヶ月か、かけ続けていた。今さら電話口に…

2021.05.11

ひとつのことにかかる時間は10年、20年、30年、もっとかかる。10年、20年、30年、もっと以前のその場所を見直しにゆくしかないんだな、自分の範囲と相手の範囲を分けるためにできることは、こちらが自分のことをするということしかやっぱりないんだと思い、…

2021.05.01

数分にまとめられた短い映像、でも、きちんとおさえるべきところをおさえてよく取材され、その上でセオリーをもって見やすいようにぎゅっと圧縮した密度の濃い映像。誠実に、善意をもって、ありのままを届けようという使命感でもって編集された映像。 で、あ…

粘土

空間に、質素な作業台。小さな、歪な、寝ているのか起きているのかわからない、妙な姿をした、粘土のかたまりがいくつか置かれている。空間がとどまらないように。灰緑の濡れたような色の粘土たち。おとずれる手たちが思い思いに触れていくため、みんなこん…

2021.04.26

でも、それぞれ目的が違わないと困ったことになるなと思い直す。 わたしが多く関わるAのことについて頼りまくっているBやC、Dに感謝しかない。B、C、D、もっと多く、E、F、G…それぞれの目的で、それぞれがそれぞれ本人のために、Aを受け入れ関わっている。A…

葛原妙子『飛行』

廢車の窓に朱きゆふぐも流れたり喪ひしものを限りなく所有す 朱・あか 暗い森をいつからか胸のなかに棲まわす。暗い森がいつからか胸のなかに棲みついたから。いつからかどこからか樹がここへ来て育ち、暗い森になった。こんなにわたしの胸のうちに育ったの…

2021.04.26

3度目の緊急事態宣言。「不要不急」というのはつまり「経済」が生き延びるためのいとなみから遠い価値観か近い価値観かということなのだろう、「人」が生き延びるのに「要」で「急」なのは「経済」が生き延びるためのいとなみとは距離のある、別の価値観をも…

2021.04.23

どこかのスイッチを切って瞬時に反応すべきしごとと、終わりがなくて長いしごとのほうに近い仕事、抱えるものそれぞれが極端になってきた。きっとこれからもっと家のことが入ってくるだろう、自分ができるのはあと何年、あと何年だからその半分、と思う。で…

2021.04.16

支配している側、加害を与えている側が、まもられるべきものについて情報を提供してなんとかなる位置まですくいあげてもらおうとしたり、まもられるべきもの自体が抱きしめているなんとかなる力を壊さないための相談をするというのは難しい。ほんとうに難し…

2021.04.15 バレネスク

Ballenesque. バレネスク。 この言葉を明日には忘れるのだろう。お金があったらこの言葉を覚えておくための写真集が買える。 白い毛につつまれた小さな生きものたち。細長い尾の先にいくにしたがって毛がなく、ぶよぶよの渇いた膚が見えている。白い毛の下は…

2021.04.14

役所関係の書類の枠内にものを書く、ということと、短い文章を短い時間に読んですぐ反応するのが、ほんとうに向いていないとよく分かる。何かもう少し本気で工夫したいなと思う。メールよりもLINEなどのやりとりのほうがもう多いのではないか。 学校の事務室…

笹川諒『水の聖歌隊』(書肆侃侃房)

椅子に深く、この世に浅く腰かける 何かこぼれる感じがあって 何度でも、このはじめの歌のこぼれる場所に戻りたいと思う。 ・歌集を読み始めたときは、出てくる言葉がいちいち自分が普段用いている意味やトーンと違う使われ方をしているような感覚があって、…

キム・ジェンドリ・グムスク 都築寿美枝 李昤京/訳『草 日本軍「慰安婦」のリビング・ヒストリー』(ころから)

そのひとの語りは、聴く側の都合やさまざまな事情でかんたんに、あっさりと風に吹き飛ばされてしまう。語られることでもっと悪くなるかもしれない。いつそうなってもおかしくない危うさをはらみながら聴かれる。 語られる記憶はそのひと自身の長い時間のなか…

説明

説明に説明を重ねてむなしいばかり。ええもちろん、もちろん、真実にできるだけ近いところなのではないか、現状のわたしに見えるぎりぎりのところではないか、そのように、そのときのわたしが信じるところを説明するのだけど。 いつか別のあなたに説明したこ…

2021.04.04

確定申告まで辿り着くことが出来、今日はなんにもしていない。ほとんど本を読み散らかしていた。しかもさらにネットでたくさん買ってしまった。ほんとうはできれば手をつけたいことが山ほどあるけれど、もう無理、と思う。何もしない、というのも無理で、何…

枯葉など

枯葉などを軽い容器につめて、かさかさ言わせて島へゆく。花は老いると赤く小さくしぼみ、かたまりに見えていたものがちりぢり、ばらばらになる。老いるときは一気に、それまでぼんやりとみてきた時間を抱え込み取り戻し、身を捨てて見つめようとするように…

2021.04.02

犬は何がたのしいんだろう。こんなところに連れてこられて居させられて、仲間もおらず、けして自分で選ばせてもらえず、自分で選んだものでもないものばかりを周りのタイミングや気分で与えられ、たのしいということも、たのしいということに溺れるというこ…

2021.03.31

なんとかして細く短いしずけさをよりあつめて、長く遠い、時間のかかる仕事ができないのか、、もう無理なんじゃないのか、、と、このくらいの時間になるといつも思う。何かもっといい方法がないのだろうか、「気がかり」が餌になっているように思う。やるべ…

2021.03.29

たまに自分が暮らしていてよく知っている「ここ」の言葉に聞こえるときがあるから、驚く。自分がすっかり知っているつもりになっている言葉の意味をすばやく超え、もっと濃く、もっとまっすぐ、言葉として、でも意味はわからないで、ふいにここへ届く。ふい…

2021.03.26

沈黙のカテゴリー Silent Category // クリエイティブセンター大阪(名村造船所跡地)。 入場券として、グレーの紙に白インクで『BLUE PRINT』と印刷された分厚くて小さな本を受け取る。 空白のページ=それを見たわたしに与えられた責任のような、意味のよ…

モノには出来るのに、人には出来ない

モノには出来るのに、人には出来ない 京都まで出ることも今はなくなって烏丸の地下はいつまでも暗い 柿灯る路傍だろうかサイレンの赤とほんのいっとき交わり 青い朝運び終えたらうすやみにわたしは山羊のように疲れて こんな野に忘られて捨ておかれたい夜に…

2021.03.17

伊藤亜紗『手の倫理』。読みながら、小学生とか保育園児とかだったときの自分が嫌だった手のこと、好きだった手のことを思い出していた。それは明確に自分のなかで決まっていたし、自分だけに分かる、自分だけの、嫌な手、好きな手だと思っていたから誰にも…