日記

とみいえひろこ/日記

鑑賞と障害

2023.10.23

越川道夫/監督・脚本「アララト 誰でもない恋人たちの風景 vol.3」 ほんとうによかった、こういう映画が観られるんだったらもういい。何があっても、何もなくても。掻きむしられる、気持ちになって、途中で無理になっていったん休憩したりした。あらゆる思…

2023.09.30

斎藤真理子『韓国文学の中心にあるもの』、押見修造『血の轍』第17集、エストラーダ恵美『私の母は知的障がい者:知的障がい者の親を持つ子供のための本』、芹沢俊介『存在論的ひきこもり論』『引きこもるという情熱』、ファン・ジョンウン 斎藤真理子/訳『…

2023.09.06

ドナ・ウィリアムズはいつも目の前にいるもの、ものごと、状況……のなかの聡明を見る人だと思う。聡明はそのことで引き摺り出され具体的になる、動きはじめる。目の前にいるものというのは向き合っているもの、目の前にいないかもしれない、向き合っているも…

2023.08.13

すみません、と言う前、思うとき、浮世さんのことを思い出す。あの映像で浮世さんの内面はひとつも描かれていなかった、と思う。すみません、で引く境界線の位置を自分で決める内面も残っていなかったから。からっぽで、くたくたで、とにかく自分の場所が欲…

2023.08.01

わたしは心のなかでいろんな人に頼っていて、その人が亡くなってしまってさびしい。さびしさ、すまなさ、恥ずかしさ、気まずさ。どうしてか久しぶりに思い出して、探したら亡くなっていた。けっこう頼っていたんだと自覚した。 別のことで。誰が何といおうと…

2023.07.11

「同じ下着を着るふたりの女」(キム・セイン/監督)。シネ・ヌーヴォーまで自転車で行けるんだと知った。もうすぐ劇場に着く、というところでゲリラ豪雨が来て、ぼとぼとになりながら浅く腰かけて観た。映画が終わって出る頃は夕方でぴかぴかに晴れていて…

2023.06.28

「ケイコ 目を澄ませて」(三宅唱/監督) めちゃくちゃよい映画だった。 ・トレーニングノート。 いろんな言い方がある、言葉なら。出力器官(入力器官)が少ないと、その分ひとつの表現が強く、短く、まるごとというか、直截的というか、言葉そのものにな…

2023.05.12

『嗅ぐ文学、動く言葉、感じる読書 自閉症者と小説を読む』ラルフ・ジェームズ・サヴァリーズ 岩坂彰/訳(みすず書房) 「自分の足を見つけ出す」というユージェニーの章が心に残った。いろいろ書き写したのにうまく保存できていなかった。 ユージェニーと…

2023.05.11

下山真衣『知的障害のある人への心理支援 思春期・青年期におけるメンタルヘルス』(学苑社) 学ぶところがすごく多かった本。というか、自分がなんとなく考えてきたこと、よかれと思ってやってきたこと、なんとなく信用してきたこと、が全部間違っていたの…

2023.05.04

D.W ウィニコット 橋本雅雄・大矢泰士/訳『新版 子どもの治療相談面接』、ディディエ・エリボン『ランスへの帰郷』、青木省三『ぼくらの中の「トラウマ」 いたみを癒すということ』、ラルフ・ジェームズ・サヴァリーズ 岩坂彰/訳『嗅ぐ文学、動く言葉、感…

2023.04.15

「トニー滝谷」市川準/監督 ぼろぼろ泣いてしまった。セリフの演出も、ドキッとする。服を買いすぎる女と孤独な男の話で、依存によって、強迫によって生きのびるうちがわにある空っぽさが滲み出していてたまらなかった。誰かが、できれば自分が、自分を見て…

「男と女」監督/イ・ユンギ

「男と女」、もう少し具体的に。お金の問題がなくて選択権があるとき、「健常者」が障害を抱える家族とどういう関係性を結ぶことにするのか、どういう方法がそれぞれにとってよいかたちなのか、いろんなありかたが示されていて、心に残りました。ほんとうは…

2023.04.07

一日中、今日は金曜なのに土曜みたいな気がしていた。他のことをしながら流し見だけど、3本も1.0倍速で観てしまった。それで、すとんと沈んでしまった。確かめに行き、もう終わったことを意味がないのに言い、ただそのあと私には意味があったのかもしれず、…

2023.04.03

不注意が多くて嫌になる。もう私は駄目なのでは。と思う。 ほんとうに久しぶりにひとりの平穏な時間があった。これからも時間がある気がして、U-NEXTに入り直してしまった。 「僕が飛びはねる理由」(U-NEXT 2020・イギリス・ドキュメンタリー映画) ・ひと…

2023.01.24

「忘れな草」というドキュメンタリー映画を配信で観た。いつも降り出しそうな島。紫の、ぼんやりした花。大雨のベランダ、白いスリッパが脱ぎ捨てられている風景。 知っているのにいちばん知らない、生きているかも死んでいるかもしらない彼女と、時間を超え…

2023.01.23

松尾恒子 高石恭子『現代人と母性』(新曜社) 甲南大学の「心の危機と臨床の知」シリーズのもの。同じシリーズの『埋葬と亡霊』がすごくおもしろかった。内容、忘れてしまった。 わたしは最近ほんとうに睡眠時間が必要になって、細かいところでかなりな身体…

2022.12.20

小林美代子『蝕まれた虹』(烏有書林) 雲が落ちていて床に それを拾うわたし、拾わないわたし。拾わないわたしは生き延び、拾おうとしたわたしは雲を見続けて、駄目になってしまった。駄目に。誰にとっての駄目に? 最近戦争の本ばかり読んでいる、と思う。…

2022.12.18

野口裕二『ケアとしての物語 ナラティヴ・アプローチの世界へ』(医学書院) 「シリーズ ケアをひらく」の本で、何度か読んでいる。 今わたしがしていることは「ベッドサイド・カンファレンス」だ、と思って安心した。 患者に関するさまざまな情報や今後の看…

2022.11.28

高松里『セルフヘルプ・グループとサポート・グループ実施ガイド 始め方・続け方・終わり方』(金剛出版) あとがきに、著者がこの本を記した背景、著者自身のニーズが書かれていたりして読者の心をつかみつつ、深い情報を削ってできるだけ易しく読めるよう…

2022.11.12

中井久夫『「思春期を考える」ことについて』(ちくま学芸文庫)。 「本人に恥をかかせぬことです」 鶴嘴も探針も入らぬ 忘却と闇に埋れて 眠る宝石、いと多し。 口惜しや、秘密のごとく 甘き香を深き孤独に 放つ花あまりに多し。 誰も恥をかかないこと。自…

2022.09.22

ミランダは糖尿病を患うシングルマザー。糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のために救急医療を必要としている。幼い子どもを隣人に預けているが、その相手は仕事に出かける必要があるため待ち時間を心配している。救急部門にはよく来ているので、スタッフの一…

2022.07.04

「心のカルテ」マーティ・ノクソン監督。 回復や選択についての、物語についての物語。こういう状況なら、こういう条件が重なったら、それはこうなるよね、そっちを選択しちゃうよね、どんどんはまり込んでいってしまうよね、体を使って、そこにあるかもしれ…

2022.06.30

押見修造『血の轍』(小学館)。家族で読んでいて、きのうひとりで家にいるときに届いたのを開けて玄関のそばでしゃがんだまま読んだ。11巻まで来た。静一くんどうにか逃げ切ってほしい。1巻から、どうなっていくんだろうとかいうことをなんとなく話してきた…

2022.06.02

映画「さがす」(監督・脚本/片山慎三)。アマプラで。 助かりたい人と助けたい人がいて、互いの弱いところが過剰にくっつき合ったり食い合おうとすることで、浅はかな、無惨な救済につながってゆく話。「現実」に応じようとして全員で「現実」の餌食になっ…

2022.05.20

サバイバーという言葉は、生きている人を肯定する。でも、それは死にたい人、死んでしまった人を否定する言葉だ この本を読んで覚えておきたいと思った言葉の多くが、いつか著者が読んだり聞いたりした、誰かのいつかの言葉だった。生き残ったものと生き残っ…

2022.02.25

『私のように黒い夜』ジョン・ハワード グリフィン 平井イサク/訳(ブルース・インター・アクションズ) 相手の立場になってみる、というたったひとつの方法をシンプルに実行することで見えてくる風景について書かれている。「相手の立場になってみる」ため…

2022.02.19

石川准・長瀬修 編著『障害学への招待』(明石書店)。 『障害学の主張』のほうを先に読んでいた。だから、こちらには、こちらにも、それぞれの本に違うかたちで悔いも多く書き込まれているんだと思った。 ほんとうは、こんなことを言ってはいけないのだけど…

2022.01.19

濱野ちひろ『聖なるズー』(集英社)、読み終えて日が経つごとに身体に沈殿していくようだし、自分の身体的なスペースが身体の外へ広がってゆく感じ。同時に相手のエリアに敏感になる。 相手を、成熟したひとつのいきものとして対等に扱うということについて…

2022.01.10

スナウラ・テイラー 今津有梨・訳『荷を引く動物たち 動物の解放と障害者の解放』(洛北出版) 繁殖と搾取を通してわたしたちが生み出した倫理的問題のかずかずを解きほどくことを試みる前に、わたしたちは、異なる動物たちに対するわたしたちの責任にかんし…

2021.07.30

ジョージナ・クリーグ 中山ゆかり・訳『目の見えない私がヘレン・ケラーにつづる怒りと愛をこめた一方的な手紙』(フィルムアート社) そうだよね、それはそうなるよね。なぜこの関係性に思い至らなかったのだろう、生きていくために自分のもっていないもの…